幾千の時を超えて
なるほど。

確かに彼女には兄と姉が1人ずつ、異母兄弟の姉がもう1人いると聞いたことがある。

異母兄弟の方はあまり仲が良くないと言っていたので、母親が同じ姉の方か。

確かに、疑うべきもなく顔つきがよく似ている。

彼女が静かに揺れるかすみ草ならば、姉の方は大輪のユリのような華やかさだが。


「――ここの住所は伝えてないと思うのですが?」

先ほどから疑問に思っていたことをぶつけてみる。


「ああ、すまない、義父が電話を切ってしまったそうだね。
 手掛かりがなかったものだから興信所――そういう調べ物をしてくれるところに頼んで探してもらったんだよ。
 沙智子さんからは一方的だが何度か手紙を貰っていたからそれを手がかりに。
 だから、こんなに遅れてしまった……。すまないね」

「ああ、そういうことですか」


祖父よりも彼らの方が脳みそは柔軟らしい。

死者を冒涜するようならば追い出すところだったが。

しかし、彼女も手紙を送っているのなら、住所の控えくらい残しておいてほしいものだ。

彼女はそういうところが抜けていた。


「せっかくですから、焼香をしていってください。母もきっと喜びます」

「ああ、そうさせてもらうよ。さあ、吉乃、行こう」

「……ええ、そうね」


彼らは連れだって祭壇の方へ向かう。

そこには小さな焼香台が添えられ、その奥には彼女の亡きがらが横たわっている。

彼らはその前に座り、彼女の方を見た後、涙を拭きながら焼香をしていった。


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