深海から見える灯【完全版】
あたしが入ってそんなに経たない頃、

たまたま、あたしは場内指名が入ってマリナさんのヘルプについていなかった。

代わりに新人の子がヘルプについていた。


マリナさんの客は上客が多い。

お昼の顔で有名なキャスター。

FMラジオの人気DJ。

あたしの街に住んでいる日本で有名な脚本家。



その日も確か、どこだかの社長が来店していた。



「脱げって言ってんだろ!!」

店中に響くマリナさんの声。


あたしはビックリして振り返った。

新人はガタガタ震えていた。

「満足に水割り一つ作れないくせに、あたしの顔に泥ぬんのかよ!」

怒鳴りつけた後、マリナさんは怖いくらい冷たいキレイな顔で笑っていた。


「ちょっと」黒服を呼ぶ。

「音楽かけて。早くしろ!」

黒服は慌ててホールを出た。
すぐに派手な音楽がなる。


「ほら、脱げよ」

髪を掴んで新人を立たせる。

新人は泣きながら服をドンドン脱いでいく。

「踊れよ」

タバコをくわえて笑うマリナさん。

客の社長も一緒に笑っている。


音楽であんまり声は聞こえなかったけど、マリナさんはその新人に

「この世界は弱肉強食なの。わかるかな?バカだからわかんない?」

笑顔でいつもの客に見せる甘ったるい声で言った。


マリナさんは怖い。

でも、この世界で、お金を稼ぐにはどうすべきかを知っている。

あたしはこのキレイなキャバ嬢を身震いして見ていた。
< 114 / 217 >

この作品をシェア

pagetop