深海から見える灯【完全版】
「終わった?」

モリのそばに行くとタバコを吸っていたモリが言った。
あたしはうなずく。


小雨は少しおさまってきた。

「ヒロって、オレの中では雨のイメージなんだ」

「雨?」

「そ、雨。こんな小雨みたいな感じ」

ギターケースを持ち上げてモリは立ち上がった。

「次はオレの番だから、うららはちょっと離れててくれない?」

モリの言葉にあたしはそこから結構離れた石段のそばに座った。



墓地は港が近くにあるから一面海が広がっている。

ここから、ヒロはどんな景色を見ているんだろう?


あたしは上を向いて空を見た。
薄ぼんやりした空を見て、ヒロが間違えた「北斗七星」と「カシオペア座」の事を思い出した。

何となく携帯を空に向けて、そのぼんやりした空を写メで取った。


港を見ているとギターの音が聞こえた。
そしてモリの歌声が聞こえた。


ソラリ。ヒロのための曲。

あたしはまた涙が出てしまった。


平日の小雨の中、墓の前でギターを弾き語りしているこの青年を他人が見たらどう思うだろう。


でも、モリとヒロのその空間はきっと誰にも邪魔出来ない。
だってそれはヒロとモリにしかわからない時間だから。


ヒロとモリの思い出。モリがあたしとヒロの思い出をわからないように、それはあたしはわからないもの。


あたしは曲が終わるまでかすかに聞こえるソラリを聴いていた。


少しおさまった小雨は最初は肌寒い感じだったけど、優しい雨に変わった気がした。

「雨」のイメージのヒロ。

この雨はヒロが降らせているのかもしれない。
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