深海から見える灯【完全版】
お墓を出て、モリはハンドルを握ると「行くか」と言った。

「え?」

あたしが聞くとバッグを指差した。

「手紙書いたんじゃなかったんじゃなかった?渡しに行こう」

確かにあたしはヒロに手紙を書いていた。
お墓に置こうとしたけど、誰が見るかわからないから置くのをやめた。

「どこに?」

「ヒロの家。さっき、焼香させてもらうように頼んだから」

車はヒロの家へ向かった。

向かう途中、道路を指差して「あそこ、ヒロの事故現場」と言われた。
あたしは見えなくなるまでその場所をずっと見ていた。



(懐かしい・・・)

ヒロの家がある団地の前であたしは思った。

よくビール持ってここ歩いていた。

ヒロの家のインターホンを鳴らすと、ヒロのお父さんが出た。
おばさんは残念だけど、留守みたいだ。

「どうぞ」

ヒロのお父さんは優しい声でヒロの部屋のドアを開けた。

ヒロの部屋の荷物はすっかり片付いていたけど、部屋のほぼ真ん中に小さな仏壇が置いてあった。

家具はなくても、壁にはヒロの写真や友達の写真がいっぱい貼ってあって、それは当時のままだった。

「うわ・・・、どうしよう。懐かしい!」

あたしはモリの袖を引っ張った。

部屋の中に入って、窓側の当時のあたしの指定席に座った。

「あたしいっつもここに座ってたの」

モリも部屋の真ん中に座って壁を見ながら「懐かしいなー」と言った。

「ここに座ってたらね、雪球が窓にぶつかって、ヒロがあたしの頭をかくして、誤解される!って言ったんだよ」

「その雪球投げたのって、多分オレ」

2人で笑った。


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