深海から見える灯【完全版】
恋人と故郷に帰った。


同郷のあたし達には共通の友達が結構いる。
あたしと恋人の関係を知るとみんな驚いていた。


久々に来たお墓はもうすっかり夏になっていて、桜の木は緑の葉が茂っている。


今回はちゃんとお花も用意して、ビールとセブンスターを置いた。



「あのね、この人がヒロ。ってもお墓だからわかんないよね」

あたしは何だか照れてしまって笑ってヒロのお墓に手を置いた。


「はじめましてだね」

恋人は笑顔で言って、お線香を焚くと結構長い間、手を合わせていた。



あたしもヒロに語りかけた。



あのね、最近のあたし精神的にボロボロなの。

こんな事を言ったらヒロは絶対怒ると思うけど、生きてるのがしんどい。

死んじゃったら楽なんじゃないかって思うの。

ヒロと寿命交換できればよかったのに・・・。

でも、今日は大事な人を連れてきたんだよ。

昔、ヒロ、紹介されたら嬉しいって言ってたでしょ?

この人があたしがこの世で一番大切な人。

厳しいけど、あたしの事を一番に考えてくれる大好きな人だよ。




あたしが目を開けると、恋人はもう手を合わせるのが終わっていたみたいだ。


「ごめん、長かった?」

あたしが言うと「大丈夫だよ」と笑った。


「ヒロに紹介してみたよ」

車に乗りながらあたしは言った。


「へー、何て紹介してくれたの?」

ハンドルを握りながら恋人は言った。




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