深海から見える灯【完全版】
「うらら、ゴールデンウィークはヒロくんのお墓参りに行かない?」

恋人が言った。


「え?何で?」

雑誌から目を離してあたしは聞き返す。


「しばらく行ってないし、うららも身体の調子が少し良くなったから遠出できるかなと思って」


「うーん、そういえばしばらく行ってないね。遠出は禁止されてないから別に大丈夫だよ。でも、何でお墓参りなの?世の中楽しい連休だよ?」


恋人はちょっと首を傾げた。
あたしもつられて首を傾げる。


「多分、会いたいんじゃないかなって思ったから。うららが病気になって・・・、って元々病気ではあったけど、オレよりもヒロくんの方が近い気がするんだよね、気持ちが」


「ん?意味わかんない」


恋人は少しためらったから言った。

「『死』っていう現実。うららが直面している現実。オレもオレなりに考えてて将来の事とか、でも結局は本人じゃなきゃわかんない部分ってあるから」



「あー・・・、確かにヒロの方が近いかも。現実に死んでるんだし」

あたしは笑った。



笑いたくなんて本当はない。でも、あまりにも出来すぎた自分の「過酷な人生」に呆れて笑っちゃう時がある。



だって、こんなのドラマかなんかの世界でしょ?

そう思っている。



でも、わかってもいる。

そんなドラマみたいな人生の人はたくさんいる。



病院の中にもいっぱいいた。

あたしと同じ、もしくはあたしより近い「死と隣り合わせの人」。
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