深海から見える灯【完全版】
ゴールデンウィーク。


お墓の前であたしはお花を飾っていた。


「全く、どうして何度も来てるのにお墓の場所忘れるのかわからん」

恋人は呆れて言った。


「だって仕方ないじゃん。桜の木、見てよ。それ目印だったんだから」


ヒロのお墓の目印は桜の木の下。


でも、その桜の木はスッパリと切られていて、2人でお墓をさまよってからヒロのおばさんにお墓の位置を再確認してやっと見つけた。


「うらら、ビール開けてあげないとヒロくん飲めないよ」


「あー、ごめんごめん」

慌ててビールのプルタブを開けた。


恋人はヒロのセブンスターを開けて1本抜くと火をつけてお墓に置いた。


あたしはセブンスターが吸えない。

昔、ふざけてヒロに「吸ってみろ」と言われて吸ってみたら苦しくて、鼻が痛くなってそれからタバコは吸うけどセブンスターは苦手。



お線香を焚いて、あたしはしゃがんで言った。


「ヒロ、久しぶり。ちょっと早いけど誕生日おめでとう」


ヒロはあたしと同じ5月生まれ。



そしてゆっくり手を合わせた。

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