深海から見える灯【完全版】
またいつものようにヒロからの電話。


「お前学校行ってる?」

最近、ヒロはよくこの言葉を口に出す。


「いや。行ってないけど。部活も引退したからますます行ってない」

「ふーん。あのさ、今からビール買ってきてくれない?」


突然の話しの変わりようにあたしは「え?」とビックリした。


「だから、オレさベースの練習してて喉すげー渇いてるんだよね。今からビール買ってウチに来いよ」

「何であたしがそんなパシリみたいな事しなきゃいけないのさ」

「何で?今日からお前はオレ様のパシリに決定したからだよ」

あたしがブーブー文句言っても「早くしろよ」と言って電話を切ってしまった。


(何であたしが・・・・)

コンビニでお金を払いながらあたしは心の中で悪態をついていた。

ヒロの家は団地だった。あたしの中学は団地の人が結構多い。

インターホンを鳴らすと出てきたのは西だった。

「え?」

あたしがビックリしていると、玄関の奥から「早く入れよ」とヒロの声が聞こえた。

ヒロの部屋は団地ならではの狭い感じで、床には楽譜が所狭しと散らばっていた。あたしはそれを足でよけながら多分万年床だろうと思う布団の横に座った。

「あー、喉渇いた」

あたしがビールを渡すと財布からお金を出して渡してきた。そのついでのようにあたしにもビールを手渡した。西は勝手に飲んでいた。

「上達したの?」

ビールを一口飲んであたしは聞いた。

「わかんねー。難しいしな。モリには上達したって言われたけどな」

「あぁ・・・、モリくんね・・・」

「それよりさぁ・・・」

また楽譜に視線を戻しながらヒロは言った。

「お前定期的にビール買ってきてくれない?」

「はぁ!?ヤダよ!!」

「オレ様専属パシリ決定だから。よろしくな」


あたしはヒロの家にビールを買って行って一緒に飲むことが多くなった。

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