深海から見える灯【完全版】

（成長ねーよな。てか、バカだよなー）

あたしは教室に入ってすぐにユキが言った「面白い事」がわかった。

久々に見た。机に大きな「死ね」の文字。
でもこれはあたしの机ではなく、別の子の机に書かれていた。
りっちゃんの机に。

席替えをしたようで、あたしの席がどこかわかんなくて近くの子に聞こうとした時

「うらら！席ここだよ」

かつてあたしが属していたグループの中心の子が笑顔で机を指差した。

あたしはドアの前で腕組をしてしばらく眺めていた。

机を必死で雑巾で拭いているりっちゃん。
それを横目で笑っているグループの子達。
まるで何もなかったかのようにあたしに笑顔を向けるあの子。

（あたしそこまでバカじゃないんだよね）

心の中でそう思って、自分の机の前に行った。

「ねぇ、うらら。りっちゃんって男にモテるからって調子乗ってない？」

意地悪な笑顔で言うこの子に悪意という単語はないのだろうか。

あたしは無言でカバンを置いて、りっちゃんの机の前に行った。
りっちゃんは泣きそうな顔で机を必死で拭いている。
それはかつてのあたしを見ているような光景だった。

「あのさ」

あたしはりっちゃんに話しかけた。
りっちゃんはあたしに気づかなかったみたいで肩がビクっとなった。

「あ･･･、うらら･･･」

あたしの顔を見て何とか笑おうとしているけど、泣き笑いのような顔。

「机のそれ、雑巾じゃ落ちないんよ。職員室でクリーナー借りないと」

毎日、机を拭くのが日課だったあたしに担任は「それ持ってっていいから」と
クリーナーごと渡してきた時、あたしは誰も助けてはくれないと悟った。

「借りてくるから待ってて」

あたしは無表情で教室を出た。

と、同時にヒロにぶつかりそうになった。

「うお･･･、ビックリ」

ヒロはあたしが学校へ来た事へなのかわからないリアクションをした。

「成長ない･･･、バカばっかりだよ！！」

あたしは多分、教室にも聞こえたかもしれないくらい大声で言ってしまった。

「は？何が。何かあったのか？」

ヒロはあたしの様子を見て険しい顔をした。