旅の終わりの物語
デュークは魔族でも戦いを嫌い、妻子と共に森の中で静かに暮らすことを選んだ男だった。

幼いリュークが人間に捕らえられた時、それを勇者であるエルが救った。

勇者であるエルが魔族のこどもを助けるなど、アストレイも母親であるリンゼイも思わなかっただろう。

アストレイが現場に駆け付けると、傷つけられたリュークにエルが回復魔法をかけているところだった。

「勇者が何の気まぐれだ」

尋ねれば。

「こどもに人間も魔族もないでしょ。人間全部が正しいと思わないし、魔族が全て悪だとは思ってないから」

その言葉に衝撃を受けたことを覚えている。



エルを寝室に寝かせたリュークが戻って来た。

「話してもらおうか」

アストレイに促されて、リンゼイが話しはじめた。

「戦いが終わり、エルは故郷に戻り、暮らしていたそうです」

それが彼女の願いだった。穏やかに暮らすこと。ささやかな幸せを喜べる女。それがエルだった。
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