Angil voice ~君の声がこの街に響くように
 数日後、俺は東京からこの海の近くのマンションに越してきた。
少しでも長い時間、彼女の傍にいるためだ。


 俺はいつも面会時間が始まる朝の9時から、
夜の8時までずっと凛に付添った。

さすがに生活してた頃と同じようにはいかないが、
二人で一緒に過ごせることがなにより嬉しかった。

 凛は時々、癌の進行による痛みが出て、薬で調節していたらしい。
でも、俺が来るようになってから調子がいいと看護師が言っていた。

だからなのか、俺は凛の苦しんでいる姿を見たことはなかった。


だが、状況は一緒に暮らしていた時より格段に悪くなっていた。

俺が越してきてから、凛がまともに食事する姿を見たことはなかった。

食事するように勧めても、食欲がない。の一言でかたづけられた。

普段の凛の様子は変わらないのだが、日に日に痩せていくその姿から、
病気の進行の速さと、重症度が伝わってきた。





 ある晴れた日、凛が海へ行きたいと行った。

外出許可も主治医の先生にもらった。
外出といってもすぐそこの海なのだが・・・。

 凛は海が近いのに全然見に行けない、と嘆いていたため、
今回の外出は主治医の先生も勧めたそうだ。

太陽が射していても、少し肌寒かったから、
凛にカーディガンをかけて俺たちは出かけた。

ゆっくり、ゆっくり
二人で浜辺を歩いた。



ここに来てから毎日二人で過ごしていた。一日一日が幸せだ。
かけがえのない大切な時間を過ごしている。

そんなことを考えながら、俺は歩いていた。



 しばらく歩いていると日が暮れ始めた。
春なのにやけに日が落ちるのが早くて、少し肌寒くなってきた。

「凛、そろそろ病室に戻ろうか。
 風邪ひくぞ。」

「もう少しだけ。
 もう少しだけ海に夕日が落ちる景色を見ていたい。」


凛の顔が夕日に照らされてオレンジに輝いている。
海も水面一面が夕日色に染まっていた。

そういえばあの時も、こんなオレンジ色の夕日を二人で見ていた。


凛は目を逸らすことなく夕日を見つめてた。
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