Angil voice ~君の声がこの街に響くように
「これは、夜間のことなので、湯浅さんは知らないと思うのですが、
 夜に時々、呼吸困難を起こすことがあるんです。

 これも咽頭癌の特徴的症状なのですが、
 これが出てくるということは、前にもまして、
 命の危険性が出てきます。」

命の危険性?


「癌とは、普通、あんな若い子が発症する病気ではないんです。
 だから、死の需要も難しい。

 これから、呼吸困難を起こす回数が増えていくと、
 死をより身近な、近いものとして、考えるようになります。

 気持ちも、よりナーバスになってくる。

 そして前にもまして、癌による痛みも増強してきます。

 ここは緩和ケア病棟ですので、痛みに対しては薬を使い調節していきますが、
 これからは特に彼女の精神ケアの部分に注意してあげてもらいたいのです。
 今日、お呼びしたのは、そのことをお話したかったのです。」

そう言って医師の説明は終わった。

「大丈夫ですか?」

目線が合わない俺に看護師が声をかけてきた。


俺はしばらくして、
「はい。」
と小さく答えた。


 俺は元気に見えていた凛がひどく重症人に思えた。



凛の声が・・・。

聞こえなくなる?

死ぬ?

凛が?






 凛の死を受容できていなかったのは俺の方だったのかもしれない・・・。


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