Angil voice ~君の声がこの街に響くように
 今になればわかる、彼女の思い。

この歌に託した心の内を・・・。

俺は静かに目をつぶり、そっと眠りについた。






 坂井は大阪で事務所がもつスタジオにいた。
担当の新人のレコーディング中だったのだ。

連絡はしていたのだが、内容は言わなかったし、
いつ行くかは具体的に話していなかった。

「どうしたの?」

第一声がこれだった。

「時間ある?」

「・・・あと1時間もしたら、休憩に入るわ。」

坂井は俺の真剣な眼差しをみて悟ったのか、時間を作ってくれた。

「しばらくここで聞いていく?」

坂井がそう口にした。

「なんで?」

俺はそう返した。

「もう、曲はかけるようになったんでしょ。」

そう言いながら坂井は遠い目でその新人のボーカルを見ている。

「お前も辛いんだろ?」

「えっ?」

「このボーカルがどうのこうのじゃないけど、
 この子を見ていると凛をデビューさせてあげたかったって思わない?

 才能は飛びぬけているから、失敗するはずはない、
 どこにでもいるこんな子なんかじゃなくて、凛をって。
 
 才能があればあるほど、なぜ凛なのかって、本当に疑問に感じるよ。」

そして俺も遠い目で答えた。

坂井は遠い目をしたまま、何も答えなかった。

< 79 / 105 >

この作品をシェア

pagetop