ウィスキー
バーケンヘッドに来て一ヶ月程経った日の仕事帰り、僕は初めてそのパブを訪れた。

カウンターに七、八席と、テーブル席が四組のこぢんまりとした店で、僕はカウンター席で偶然彼と隣り合わせた。

五十過ぎで労働者階級の小太りな男で、色褪せたシャツにジーンズをサスペンダーで留めていた。


「酒を飲むと心が自由になる。ひとくち口にする度に現実の嫌なことなんか何もかも忘れていき心がスーッと我が最良の時代へと運ばれていくんだ」


「最良の時代っていつですか?」と僕はビターのパイントを飲みながら訊ねた。


「二十年以上も前だ。そこにはいつも妻がいる」
 

ボブはそう言うと、目の前のウィスキーの注がれたグラスを大事そうに持ち上げゆっくりと口に運んだ。
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