授 か り 人

「そんな戦い、僕たち何も見てないよ?それに、氷斗はずっと倒れてたし…」

 困惑のお手本のような顔で風稀は呟く。

「そんな事はない!!! 俺様はしっかりあの剣を握ったんだよ!!!」

 興奮と怒りと疑問の収拾がつかないらしく、声をあげて反論するも、誰もその氷斗を見ていないため、同意するものは現れない。

「思い出してもらわないといけないと言われたらしいですが何か知ってるんですか?」

 火栄からの急な質問に頭の回転が追い付かないのか、数秒の沈黙が起きた。
 その間に興奮も落ち着いたのか、聞かれた言葉の内容を理解した氷斗は項垂れるような形で頷く。

「思い出すって言われても、俺様はマイン様が作った生き物だぞ?それ以前の記憶なんて在るわけがない。
 マイン様から作られた後にあの女と会ったことも無い。
 一体どうゆう事だよ。俺様だけ幻覚を見たってことかよ…」

「氷斗、疲れてるのかなぁ」

 心配そうに顔を覗き込む風稀の後ろでため息が聞こえた。

「多分、幻でも見たんだろうな。もしくは、わざと幻を見せられたか。」

 雷志は頭をくしゃくしゃとかきむしりながら氷斗の前に座り直す。

「幻だってんなら、なんで俺様だけあんなリアルな幻をみなきゃならねぇんだよ。不公平じゃねーか。」

「それなんだが……」

 そう言って何かを確認するかのように氷斗の目をじっと凝視する雷志。
 あまりに見つめられるので、若干苛立つ氷斗。

「確認したいことがある。さっきお前が説明してくれた話では出て来なかったんだが、その女、最初に挨拶しなかったか?」
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