授 か り 人
カウンターに座っていた男がゆっくりと近付き、声をかけてきた男の両肩をしっかりと両手で抑える。
「…雷志を連れて行こう。」
あちこちから聞こえてくる鼻をすする音や、歯ぎしりの音。
諭された男は雷志から数歩下がって俯いた。
一人困惑したままの雷志は、促されるまま店を出て、飲み過ぎたのか頭を押さえながら歩き続ける。
夜空には無数の星が散らばっていて、何かを祝うかのように、あちこちで祝杯が挙げられている。大きな広場では焚き火なんかをしながら、酒の肴を作っている光景等も見えた。
青年の後ろには、酒場にいた男たちが無言で付いて来ていて、その光景を見た町の人々は一様に、その口を閉じ、疑うような顔で不安げに彼らを見つめた。
訳も分からず町中を歩き続けた雷志が連れて来られた場所は、一件の住宅の前。
一人の男が呼び鈴を鳴らすと暫くして年輩の女性が顔を出し、雷志だけが中に案内された。
扉が閉まると同時に、一緒に歩いて来た男たちの半数がその家の前に座り込んでしまう。
「…なぁ、雷志はどうなるんだ…」
店で青年の背中を叩いていた男が、座り込み俯いたまま誰に問いかけるでもなく呟いた。
その問いに答える者は居ない。
暫くして、誰からともなくその場を離れて行き、その男だけが取り残された。