授 か り 人
「全く記憶に無い。本当に知り合いなのか?俺様とあの女とは。」
気持ちの高ぶりも無く落ち着いた様子で誰に言うでもなく呟く氷斗。
その横で思案する雷志が立ち上がった。
「雷志、何処かに行くの?」
不安げな表情を向ける風稀に何の躊躇いもなく、『ちょっと聞いてくるだけだ』と言いながら部屋を出ていってしまった。
「おいっ、待てよ! 俺様だって関わってることなんだから一人で行くなよ」
足をもつらせながら雷志を追いかけて出ていってしまった。
残された二人は何も出来ずただのんびり待つのみ。
氷斗が追いかけて行って雷志を見付けたときには、雷志はすでにこの旅館で働いているらしい女性に何かを聞いているところだった。
「そうですか、それは近くに? 皆さんの不安も解消されれば良いですが、まずは行ってみます。有り難う。」
女性は何かを運んでいる最中だったようで、足早に離れ去ってしまった。
氷斗が就いて来ていたことに気付いた雷志は、
「移動するぞ。この町の外れの方だ。」
矢継ぎ早に説明して、さっさと火栄達の元に戻ってしまう。
「ちょ、ちょっと待てよ、俺様最後の方しか聞いてなかったから、何しに行くとか解かんねぇんだけどよ!!!」
声を荒げるも、雷志の元に届いているのかは定かではない。
氷斗が部屋に辿り着いた時には、皆は少ない荷物をまとめ、部屋を出るところだった。
氷斗の荷物と言っても何もないので準備の必要もなく雷志に着いていくしか選択肢はなかった。