授 か り 人
「見えてきた。あの沼のことだろう」
雷志が指差した先には確かに沼がある。しかし、今にも干上がりそうなほど小さい。
「これじゃあ、飲めって言われても、飲めないから、氷斗の心配は無くなったね。」
無邪気に笑う風稀を見ても、不安は消えていかなかった。
嫌な予感が徐々に確実なものへと変わり始める。
明らかに干上がって見えていた沼の表面は、並々と揺れる水面に変わり、その真ん中に大きな岩らしきものも見えてきた。
しかし、同時に現れた霧が濃すぎてよく見えない。
前へ進む足音も聞こえる。
「おい、俺様がいいって言うまで動くんじゃねえよ!」
足音を追いかけ霧を掻き分けるように進んで気付いたときにはそれぞれの足が一歩、沼に入っていた。
氷斗がヤバイと思ったときにはもう、すでに相手の手中だった。
徐々に霧が晴れて、真ん中に現れた岩の上には森の中ですれ違った女性が鎮座している。