地味子の秘密*番外編*
……ったく。

こういうとこが、かわいすぎんだよ。

けなげで、感謝の心を忘れてなくて。

純粋で。

未だに、キスだけで顔を赤くするほど純情だし?

かわいいかわいい俺だけのお姫様。


「今年は、最高のバレンタインじゃん」

「へ?」

「お前のおかげでな?」


そう言うと、杏が胸から顔を上げる。

『どういうこと?』という顔をしているが、そのまま微笑みかけて、口づけた。



30分後―――。


「咲さんからのチョコ、食べてもいい?」

「どーぞ」

「わ~い♪」

俺の脚の間に座って背中を預けている杏が、うれしそうに包みを開ける。

咲姉からのチョコはどうやら、雑誌の撮影が行われているパリから送られてきたようだ。

包み紙にプリントしてあるロゴが、パリに本店を置く有名店のものだからな……。


咲姉とかに、手作りなんてできねーし。

作ったら、その料理は殺人兵器ものだ。

死者を出す可能性がある。


「なにかなぁ~?」


杏が箱のフタを開けた。

入っていたのは、一粒数千円のトリュフ。

10数種類入っている。

これって、高いんだよな。

よく親父たちが、俺たち姉弟への土産に買ってきていた。

咲姉がモデルとしてロケに行くようになってからは、なおさら回数が増えた。

これは、咲姉の好物だしな。


「キャア~おいしそう!あとで咲さんにお礼の電話しなきゃ!」

うれしそうな弾んだ声がして、俺もうれしかった。



だが―――。


あ、ヤベェ!

鼻に届いたニオイで、取り上げるべきだったと思う。


いや、俺も食べたことがあったから、すぐに思い出すべきだったと思う。

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