地味子の秘密*番外編*
それは、この付近に住んでいるらしい雑鬼。

黒のおかっぱ頭で、着物を着ている。

なんか、座敷童っぽいな。


みんなには見えていないけど、陰陽師のあたしにはばっちりと見えています。


その雑鬼が、あたしのパフェを欲しそうに見ている。

たぶん、一口あげるだけで彼女は満足すると思う。

けど……この場にいるのが陸や柚莉ならまだしも、相手はクラスのみんな。

あたしの秘密なんて知らない。

陸とかなら、遠慮なく目の前であげられるんだけど……。

『ごめん、今はムリ』

目だけで彼女に訴えた。


「杏ちゃ~ん。ダメ~?」


パフェを食べているみんなには、気づかれないようにコクコクと首を縦に振る。

あぁ~……泣きそう。

彼女の目に涙が溜まってきた。


「杏樹ちゃん、食べないの?」

「え。た、食べるよ」


中村さんがこっちを不思議そうに見ている。


ど、どうしよう? ちょっとだけなら、バレないかな?

じゃあ……。

自分のパフェから、スプーンでひと口すくい、机の下に向ける。


「キャア~ありがとう~」


そんな声が聞こえたと思うと、スプーンからパフェがなくなる感じがした。


せ、成功だ。誰にもバレてない。


その後、座敷童のような雑鬼の彼女は笑顔で店を出て行った。


「やっと食べられる……」


パフェを食べるだけでこんなに緊張するなんて。


そう小さく呟いて、パフェを口に運んだ。


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