地味子の秘密*番外編*
いやいや、ここ何階だと思ってんだよ。

ビルの最上階だぞ。

それに、この部屋には俺しかいない。

北原は会議室の片づけ中だし。

だから、窓を叩くなら、外からしか―――……。

――ドンドン

叩いているんですけど。

持っていた会議資料を置いて、ブラインドを下げた窓に近づく。

この部屋には、いくつか窓があり、音が聞こえるのは1番小さい窓だ。

――シャー……

ブラインドを上げた瞬間。


「え?」


慣れている俺でも、本気で驚いた。

窓の外を飛んでいる奴は、必死に俺に何かを言おうとしている。

こんなことができる人間はいない。

俺の目の前にいる奴は、妖怪だ。

容姿は、デカい鳥。

鶴とか、白鳥くらいの大きさ。色は真っ赤だけど。

なにかを言っているので、少しだけ窓を開けた。


「お前、杏樹の男だな?」

「あ、あぁ……」


開けた途端に問いかられる。

思っていたよりも低い声に、ちょっと怯んだ。

杏、お前ってこんな妖怪とも知り合いなのか。

さすがは、全国の妖怪を束ねる神崎の娘だな。


「今すぐに、隣町の駅前にあるカラオケボックスに向かえ」

「は?」

「杏樹はそこにいる」


バサバサと大きな紅い翼をばたつかせる奴。

なんで、杏の居場所を知ってるんだ?

そう考えていたら、奴が答えてくれた。


「俺の縄張りは、隣町だ。神崎の娘が来たことくらい、霊力だけですぐにわかる」

「なるほど」



霊力だけでわかるとか、どんだけ杏は強いんだよ。


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