地味子の秘密*番外編*
アイツに触れると、自分が制御できなくなって、大切にしたいのに……このまま抱きたいと思ってしまった。

まぁ……杏樹に止められたんだけど。


他にどんなものを失っても、絶対に杏樹だけは、手放したりしない。

そう心の中で決めた瞬間だった。


9月―――

杏樹に触れた時に、ふたりで決めたことがあった。

陸と別れるまでは、何もしないと。


『ちゃんと陸と切れてから、会長と付き合いたい』という杏樹の案だった。


だが―――……。

事件が起きた。

学園内に刃物を持った男がやってきて、生徒たちを襲おうとした。

零に男が刃物を向けて、誰も手が出せない時に動いたのは……杏樹だった。


『何のためにこの学園に来たと思ってるの?』


フフッと笑って、俺の目の前の窓から下へと飛び降りた。


そして―――。


恐怖で動けなかった零をかばって、杏樹は体中を刺された―――。



意識不明の重体で病院に運ばれて、医者から、


『死を覚悟してください』


と言われたと担任から聞いた時は、自分を責めることしかなかった。


あの華奢な体を痛めつけられて、何も悪いことはしていないのに、杏樹が死ぬなんて……。

俺が代わってやれるなら代わりたいと何度も思った。



でも、その時も病院に来たのは……滝本陸だった。


なぁ。なんでお前が杏樹の傍に来てんだよ


夏休み中、コイツのこと放っておいて。

今さら、『俺が彼氏だ』なんて顔すんじゃねーよ。

杏樹は、お前のこともう好きじゃねーんだよ。


杏樹が目覚めるまでの1週間。


毎日病室に来る陸に対して、そう思っていた。


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