地味子の秘密*番外編*

そして、その直感は的中し―――……。


杏樹が転校する前日。

放課後の生徒会室に呼び出され、


『会長……あたしやっぱり陸が好きです』


別れを告げられた。


浮気だと思っていた陸の相手は、陸の会社の取引相手で。

その相手にホテルへ誘われていたのだが、陸は一切やましいことはなかった。


その時の杏樹は、病室でボーっとしていたあの頃の杏樹ではなく、生き生きとした目をしていた。


俺では、どうしようも出来なかったのに。

陸に会った数日で、コイツは自分を取り戻した。

やっぱり陸には到底勝てない。


夏休みのあの日。

公園で、初めて杏樹が泣いた時にヤツに並んだと思ったのに。


俺は、陸のように杏樹を支えられるほどの器はなかったのだと感じた。




杏樹が東雲で過ごす最終日。

正門で見送りに行ったら、


『どうもお世話になりました』


とニッコリと笑みを浮かべた陸がいた。

杏樹を迎えに来たようだったが、俺には


『俺の女にもう手を出すな』


と言いに来たようにも思えた。



杏樹が陸を見た瞬間、口では『来なくていいのに』などと言っていても、顔にはしっかりと陸に会えたことが嬉しいと書いてあった。


やっぱり……このふたりには、俺が入る隙がない。



ふたり仲良く帰って行く姿を見て、もう諦めようと思った。



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