地味子の秘密*番外編*
玄関先に向かって歩いてきたのは、俺たちが大切で大切で仕方がない我が子。
「ぱっぱ、おかえり!」
俺の顔を見た途端、パアァァ……と笑顔になって両手を広げてくる。
「あら、繭とお昼寝してたのに起きたのね」
俺から離れた杏が呟く。
あーもー可愛くて仕方ない。
親バカと言われても構わない。
我が子が一番可愛い!
杏が妊娠したとわかった時は、俺たちのどちらに似るかと思ったが。
生まれてきたら、杏にそっくりだった。
この子の中で、俺に似ているとすれば……髪の色だろうか。
少しだけ茶色っぽい。
これだけは生まれつき。
2歳になり、杏の幼い頃を知る人たちには、日々杏に似てきていると言われる。
「ぱっぱ、だっこ!」
いつの間にか、俺の足元まで来ていた我が子は、抱き上げてもらえるように両手を高く上げていた。
そのキラキラとした目は見ていて飽きない。
手を伸ばして小さな体を抱きあげる。
「ただいま、“―――”。今日はパーティーだぞ」
「ぱーてぃー?」
「そうだよ。悠たちや雅人たち、安斎も来るぞ」
そう言うと、我が子は俺の言った意味がわかったのか、きゃっきゃっと嬉しそうに声を上げる。
「“―――”だけ起きたの?」
「うん。ぱっぱ、きたから」
「そう」
我が子の話を聞いて、ニッコリと笑った杏は俺たちから離れ……子ども部屋に入っていく。
「“―――”、今日もいい子にしてたか?」
「うん! いい子、してた」
ニコニコ笑顔で話す我が子は、抱き上げた俺にベッタリと抱きつく。
“―――”は、ぶっちゃけ……パパっ子だ。
俺のすること、行くとこに必ずついて行くと言って聞かない。
朝早く起きていると、会社に行く俺について行くと言う。
家にいると、必ず俺の傍で遊ぶし、杏より俺に抱っこをせがむ。
まぁ……―――は、違うけどな。
「ぱっぱ」
「ん? なんだ“―――”」
「それ、なあに?」
突然話しかけられて、視線を我が子に合わせると……“―――”は、俺が床に置いていた紙袋を指差していた。
「あぁ……これはな、お土産だ」
「おみやげ?」
「そうだよ、いい子にしていたご褒美だ」
紙袋を持ち上げて、リビングへと向かう。
ソファーへ我が子を抱き上げたまま腰を下ろし、紙袋の中身を見せてやる。
「ぱっぱ!」
嬉しそうな顔で、その中身を抱きしめた。
喜んでくれたようでよかった。
「気に入ったか? 今日着てもいいぞ?」
「いいの? きる! ママ、みてっ!」
ちょうど子供部屋からリビングへやってきた杏に“―――”は、それを広げて見せる。
すると。
「え? 陸、また買ったの?」
言われるだろうと予想していた言葉が飛んできた。
「会社の帰りに見つけてな。絶対に“――”に似合うと思って買ってきた」
「もう! またそんな理由で……」
「いいじゃねーか、“――――”がいい子にしてたご褒美だ」
「まったく陸ったら……今からそんなに甘やかしてどうするのよ」
「可愛んだから仕方ねーだろ? ぜってー嫁には出さねーからな」
「まだ2歳児なのに何言ってんのよ、馬鹿」
呆れた表情の杏は、『買っちゃったものは仕方ない』といった様子。
よし、今回も上手く乗り切れた!
俺が買ってきたのは、色んなコスプレ衣装。
不思議の国のアリスとうさぎ、ハートの女王様。
かぼちゃのドレスに、魔女のドレス。
最近、我が子に似合うと思うと、ついつい買ってしまう。
その度に杏に『買いすぎ!』と怒られているんだが……。
でも、今回は多かったかもしれない。
だが店頭でディスプレイされていたものがどれも可愛らしくて、選べなかったのだ。
仕方あるまい……。
そこで、ふと思った。
「杏」
「はい?」
「“―――”はどうした?」
「まだ夢の中よ」
「そっか」
その話を聞いて、ソファーから立ち上がる。
「ぱっぱ、どこいくの?」
「“―――”のとこ」
「“―――”? ねんねちゅうだよ」
「顔見に行ってくる」
“―――”が“―――”は以前読み聞かせた童話に出てくる『眠り姫』だというが。
俺も、時々マジでそう思う。
しかし、そうしなければ“―――――――――”だろう。
生まれつきのことだからなぁ……。
そう言って、俺は子供部屋へ足を運んだ。