地味子の秘密*番外編*
そんなことが会場に来て早々あったんだけど、次第にBBQの準備で忙しくなり……あっという間に時間が過ぎていった。
「あ、そういえば……茅那ちゃんって学生?」
しばらく数人の男女で飲んで食べていた時に、近藤さん質問が飛んできた。
「え?」
「去年あった時はさ、聞きそびれたから。高瀬と同い年なのは知ってんだけど」
突然のことに頭がフリーズしてしまう。
な、なんて答えればいいんだろうか。私は女子大生じゃない、アイドル……だもん。
でもここでそんなこと言えない……けど仕事に誇りは持ってるから、嘘とかつきたくない。
どう答えればいいのかわからなかった。
その時。
「コイツ、歌手志望で今レッスン中なんだよ」
隣に座っていた高瀬くんがサラッと答えて見せた。
ビックリして思わず彼を凝視する。
そんな私を横目で見て『話し合わせろ』と目で言って来た。
「え? そうなの? あ、でもそういえばカラオケマジ上手かったよね!」
ポンッと納得いったように手を叩く近藤さん。
去年近藤さんたちサークルの数人と初めて会った時、花火大会と一緒に開催されていたカラオケ大会に色々と事情があって急きょ出たんだ。
その時……優勝したんだよね。
近藤さんの反応に周囲の人も「へぇ~すごいね」という感じの返事をする。
「レッスン中……って、デビューはまだなの?」
「はい」
もうしかたない、高瀬くんの言った『デビューを目指す歌手希望の女の子』という設定にしよう。
デビューは目指してるもん、“グループを卒業してからのソロデビュー”を。
唄うことが好きで。
夢だった歌手になって……一生唄っていきたい。
レッスン中っていうのも“卒業してソロになるまでの準備中”って意味では間違ってないから。
この目の前にいる人たちに嘘をつくことにはなるけど……全部じゃない。
いつか、本当のことが言える時になったら自信を持って言おう。
“工藤茅那です”って。