地味子の秘密*番外編*
「見られなかったかな?」
「静かにしてろ」
扉越しに聞こえる足音がこの場から遠ざかっていくのを確認してホッと息をつく。
「行ったみたいだな」
「よかったぁ……」
お互いに胸を撫で下ろしたところで、俺は腕の中にいる茅那を見下ろす。
「な、なに?」
身長差があることで自然と上目遣いになっている。
それを眺めながら、ふと思い出したことを言ってみた。
「そう言えば、なんで今日ウチの署に来るって言わなかった?」
「え」
「1日署長やるだなんて聞いてねぇけど?」
そこまで言うと、茅那は一瞬考えるような表情になって話し始める。
「それは、高瀬くんが悪いんだもん」
「はァ? どういうことだ」
あ、また名字で呼んだ。
「この前……一か月くらい前。ドラマが決まったって連絡したの覚えてますか?」
「あぁ」
「ちゃんと、その時に言ったんですよ?」
「なんて?」
「今度、高瀬くんの勤める警察署で署長さんやります!って。なのに、高瀬くん考えことしてて聞いてなかったでしょ?」
「したか? その話」
「した! したもん! 聞いてなかったんでしょ。だから今日のこと教えなかったの!」
頬を膨らませて顔を反らす茅那。
あの時の電話を思い出すと、確かにコイツから『ちゃんと聞いてるか』と聞かれた覚えがある。
それに『もういい、教えない』と言われた覚えもある。
てことは。
俺が話を聞いてなかったことが悪いってわけか。
「悪かったな」
素直に謝ると、茅那は顔を元の位置に戻し「今度からちゃんと話を聞いてね」と小声で言ったのでコクリと頷いた。
それを見た彼女は満足そうに微笑んだ。