地味子の秘密*番外編*
なにかに驚いた様子だ。
彼女の視線は俺たちの方を向いている。


「えっ? 俺のこと見てる?」


近藤が俺の腕を肘で突っついてくる。
いや、勘違いだろ。
そうは思っても、茅那ちゃんは唖然とした表情で俺たちの方を見ているから、勘違いではないのかもしれない。


「な、なんで……」


マイク越しではない、彼女の呟きが聞こえる。
俺たちのいるところの近くに、誰か見知った人がいるのか?
キョロキョロと周囲を見渡しても、誰かなんてわかるわけない。


「どうしたんだろう、茅那ちゃん」


近藤が彼女に向かって呟いた、その時。




『今日は……本当に、忘れられないくらい、思い出になるライブにしちゃいますからね』



TVや雑誌でも見たことがないような満面の。
幸せそうな。

笑みを浮かべて、そうマイク越しに言った。

それは、誰かに向けられたメッセージのような。
だけど、会場中の客に向けられたものでもあるような。

意味深に聞こえるものだった。




『今日は、この曲にしました。では、聞いて下さい……』



その言葉とともに、フッとステージの照明が消え……曲のイントロが始まった。



その曲は。

数年前に公開され大ヒットした映画の主題歌。

誰もが知っている人気曲だった。

でも。


俺が今まで聴いた茅那ちゃんのソロの中で。


一番、上手くて……印象に残るものだった。

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