地味子の秘密*番外編*
手を洗い終わったらしい樹里が、ハンカチで拭きながら戻ってくる。


「樹里さ、好きなヤツでもいるのか?」

「えっ……」


ピタッと彼女の動きが止まった。


あ、いるんだな。

知らなかったなぁ~……幼なじみの好きな人なんて聞いたこともなかったし。


「わ、渉……どうしてそんなこと聞くの?」

「いや、お前さモテるのに男いないから。佐々木までフるってことは、好きなヤツいるのかと思って……」


そこまで言って、ふと樹里の顔を見た。

気のせいかもしれねーけど、瞳の奥が揺れてるように感じた。

泣きそうな顔してる?

いやいやまさか。


「お前、キレイに育ったんだから自分に自信持てよ。告白すれば絶対に成功する! 幼なじみの俺が言うんだから間違いない」


樹里の告白する気持ちを応援してやろうと思って、言った言葉。


お世辞とかじゃなく、コイツがキレイなのは本当のことだしな。

今まで、面倒見てもらってるばっかりだから、樹里には良いヤツを見つけて幸せになって欲しい。

俺の1番大切な幼なじみだから。

1番近くにいた女の子だから。


俺は本心を言ったつもりだった。


しかし……。


「……なんで。なんでわからないの。……渉のバカッ!」

「へ?」

「この鈍感陰陽師!」


ーーバフッ


「いって……」


ーーバタンッ


イスに置いていた俺の鞄を投げつけると、保健室を出ていった。


なんで樹里がキレたのか……まったくわからなかった。
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