地味子の秘密*番外編*
「え?べ、弁当……?」
チョコではなく、いつもの手作り弁当。
閻魔大王のキャラクターが描かれている布に包まれている四角い箱。
「渡してなかったから、遅くなってごめんね」
ニコリと微笑む杏ちゃん。
うん。
うん。
弁当はうれしいですよ?
でも、チョコは?
今日、バレンタインだぞ?
彼氏にくれないわけ?
渡された弁当を見つめる。
なんか、悲しいんですけど。
ウキウキだった気分が急降下していく。
そこに追い打ちをかけるように、杏が言った。
「わぁ~すご~い!全部チョコなんでしょ?何個もらったの?」
……。
俺の席の後ろにある段ボール。
山積みにされたチョコを杏が見て、感心している。
妬いている様子もない。
キレイにラッピングされた箱を「かわいい」と言って眺めているだけ。
そしたら。
「ねぇ、今日咲さん家にいる?」
クルリとチョコからこっちを向いて、問いかけてきた。
「いや、今パリで撮影中だからいないけど」
そう言った瞬間……。
「う~んどうしよ?チョコ渡したかったのに……」
はい?
お前は、俺にはやらず、姉貴にやるのか?
「ねぇねぇ!岡本さんはいるでしょ?」
岡本さんっていうのは、俺の家のお手伝いさん。
俺が生まれる前から、家に仕えていてくれて……杏とも仲がいい。
「いるけど……」
「やった!岡本さんにも渡そうって思ってたんだ~」
……俺、岡本さんにも負けた?
これ、本気で泣いてもいいか?
ニコニコと笑う杏。
ん?ちょっと待てよ?
この様子じゃ……まさか!