地味子の秘密*番外編*
「陸ってさ、甘いものはムリだけど……コーヒーは好きじゃない?だから、作ってみたんだ」
そう話す杏を見て、この数日、俺が悩んでいたことが吹き飛ぶ。
悩む必要なんてなかったな。
こんなものをくれるんだから。
「杏、うまい」
「よかった」
そう言うと、コイツはニッコリと笑った。
チョコをもらえて、大満足。
メチャクチャうまかったし!
ご機嫌になった俺だが、ひとつの疑問が。
「じゃあ、こっちはなんだ?」
紙袋の中に入っていたもうひとつの箱。
今開けたのがチョコだった。
それじゃあ、これは?
長方形の薄い箱を紙袋から取り出す。
「杏?もうひとつのチョコ?」
「ううん。ちがうよ」
フルフルと顔を横に振る杏を見て、さらにわからなくなった。
これ……一体なに?
箱の中身に見当もつかず、包みをはがしていく。
箱のフタを開けると、そこには―――……。
「気に入ってくれるかは、わからないけど……陸が一番似合う服ってそれをつける時だと思うんだよね」
紅茶を口に運ぶ杏が、そう呟いた。
「杏……マジうれしいんだけど。泣きそうかも……」
「うわっ?そ、そこまで?」
大げさな言葉に、いや、本気で泣きそうなくらいにうれしいんだけど……杏はポカンとしている。
箱の中に入っていたのは、ネクタイ―――。
「お店でね、店員さんに不思議がられちゃった」
「なんで?」
「高校生がこれを贈る相手っていったら、父親とかが多いじゃない?」
「まぁ~そうかもな」
フツーは、高校生にスーツ用のネクタイなんて贈らないだろ。