シンデレラ・セル


 当然平日の午前中なのだから誰一人其処に客は存在していなかった。私はそうだ何か楽器でも始めようかと思った訳ではないけれど、私はただ、楽器を見つめるのが小さな…綺麗な頃から好きだった。

 今まで色々な楽器に触れてきた。ピアノはアップライトだけれど家にある。エレキギターはレスポール派で、そもそもアコースティックギターには興味もない。小学生の時吹奏楽団に所属してクラリネットとフルート、マリンバをローテーションで担当した。別段音楽的素養がある訳ではないけれど、確かに趣味であった。

「ベースをお探しですか?」

 宛てもなくふらふらとしていたら店員に話し掛けられた。きっと何故私が学校をサボってこんなところに居るのか不思議でならないとは思うだろうけれど、私ははあ、まあ、と濁してその人を見た。

「…ベースって落ち着くから」

「皆さんそう仰いますね」

「ほんと…」

 私は溜め息を吐いて静かなそれを眺めた。落ち着きはしないのが実際のところ。でも大体何と言えば怪しまれないのかを私は知っていた。

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