シンデレラ・セル
何を思ったのだろうか、店員は私の質問には直接返答せず、唯、ピアノの楽譜辺りに居るよ、その子。と笑顔で言って去っていった。何てお節介な人間なのだろう。
結果取り残された私は、興味本意だ、そう、只の好奇心で、ピアノコーナーと銘打ったその場所を覗き込む。確かに、居た。其処に、不思議な程制服の似合わない可愛らしい子がぽつんと佇んで居た。何やら楽譜の羅列を眺めているようだった。少し、哀しそうに。
「ピアノ、弾くの?」
黙っていることが良しとされる環境で無意識の内に話し出してしまうのが私の短所だ。今回も相当の衝撃を相手に与えてしまったようだった。大袈裟に一歩引いたその子の腕が平積みになった楽譜を綺麗に磨かれた床にばら蒔かれた。
「あ、どうしようっ」
「…」
──面倒臭い。
はっきりと、そう思った。判りやすくおろおろとする目の前の少女に、眩しさと、嫌悪感。
わたしにはない、そんなもの。私ははあ、と性格悪く溜め息を吐いて相手を謝らせた。