シンデレラ・セル
しゃがみ込むとその少女はとても綺麗な脚をしていた。華奢で、清楚な脚をしていた。私は足元のスコアを拾い集めると、だらんと下げられた少女の右手に差し込むように渡してやった。
──だらん、と?
私が違和感を感じるその前に再び楽譜はばら蒔かれた。少女は慌てて左手でそれらをかき集める。そのまま、私も彼女も、しゃがみ込んだまま、見つめ合ったまま、動こうとしなかった。不思議な力に取り憑かれた様な、時が止まった様な、感覚だった。私はそれを、一刻も早く、打ち破りたかった。
「…どんくさいの?」
私が沈黙を破ると少女は目を伏せて唇のみで笑みを作った。傷付けただろうか。私は空気を誤魔化す為、少女の手から楽譜を奪う様にして乱暴に平積みへ置いた。一連の動きを追ったまま瞳は静止し、彼女は怒った様に唇を結んだ。
「そう、なのかもね」
…何故か、その先を追及することが出来なかった。狡い位、悔しさやら何やら負の感情を綺麗に体現する彼女に見惚れてしまったからだった。