シンデレラ・セル

 違うのだ、別に吏花と連弾がしたいと云う方に気持ちが傾いたのではなくて、私は面倒臭くなったのだった。何を言っても無駄だと思った。

 私は溜め息を吐いて吏花から目を逸らす。鞄を肩に掛け直してから吏花に一瞥をくれてやった。吏花は相も変わらずニコニコキラキラしたままで、私はある意味愕然とした。私の口元は確実に笑顔の方へと歪んだけれど直前でがしりと引き攣って小さく息が漏れた。

「…じゃ、行くから…アンタも学校行きなよ」

「あ、私今日は学校行かないんだ。病院行くの」

「…………あー…、そ」


 じゃあね、とにこやかに手を振る吏花に出来損ないな会釈をして私は楽器店を出た。





 普通、女達は私を憎むなり恨むなり妬むなり蔑むなり同情するなり何なりはっきりとした意志を感じ取ることが出来るものだ。女なんて本当は何よりも強堅な癖に甘ったれで、馬鹿な生き物だ。だから私は女に生まれたくなかったし、女として抱かれるのも大嫌いだ。

 そして女を見下して笑う、抱いてやっているという意味の判らない偏見を持つような男が、大嫌いだ。

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