シンデレラ・セル
五時限目も中盤に差し掛かった頃、私は実は初めての遅刻として教室へ入った。遅刻をしなかったのは結局目立ちたくなかったからだ。そして何故今かと云えば、五時限目は体育だからである。奴等が出払った今しか私が安心して教室へ行ける時機は無かったのだった。
「…かばん…」
結論から云うと鞄は蓋こそ開けられていたものの何の異状もなく、私は息を吐いた。そのままずるずると机の側にしゃがみ込む。椅子の座部に手を掛けて突っ伏した。そして目を瞑る。
『聞いた?笹川さんって身体売ってるんだって』
「ッ!?」
ガタン!
誰かの声に息を飲んで振り返る。でも背後にも教室にも誰の姿も無い。私は静かに立ち上がって並んだ机の間を縫ってドアを開けて廊下へ顔を出す。
誰も 居ない。
「……空耳?」
『それってビッチってことー?』
笑い蔑む声に教室を振り返ってもやはり誰も居ない。私の息の音しか響かない。ドアはカタカタと音を立てて私の震えを顕著に指し表した。
私が聞いたのは教室に染み付いた私の噂だった。