辛いくらいに君が好き
今の季節は―冬
暖房さえつけていなかったから、気付けばあたしの足はガクガクと震えていた。
クローゼットからコートを出して羽織ると、ミニテーブルの上に置いてあるアルバムを手に取ってからブーツを履いた。
ドアを開けて、部屋を出た。
なるべく音を出さないように歩いて、エレベータの前で止まった。
……誰かが、上がってくる……
ふいに、そんな予感がした。
こんなときに…なるべく人には会いたくない。
―エレベーターがあがってきた。
あたしの予感通り…誰かが乗っている…ドアが開いて出てきた人物に、あたしの目は釘付けになってしまった。
「………舞……なんで…」
ドアから出てきたのは、あたしの学生の頃からの一番の親友、山本 舞。
あたしよりも少し身長は低いけれど、学生の頃から変わらず、今も美人だ。
「…あれ?さゆじゃん!なんだ、出かけるの?」
「舞、久しぶり。…うん、出かけるところ」
舞は仕事帰りなのか…笑顔だけれど、その表情には疲れが混ざっているように見える。それにスーツを着てネクタイを緩めている、その姿と今の時間帯から…残業、だ。