おちます、あなたに
「先輩、ありがとうございます……」
ズレた鞄を掛け直す。
掴まれた腕を中心に、何かが広がっていく感覚が止まらなかった。
「悠ちゃん。危ないから、手繋ぐね」
「え」
先輩が私のてのひらをするりと握る。
憧れの、恋人繋ぎ。
くすぐったくて、あたたかくて。
……涙が出そうになった。
「いつまでも止まってたら迷惑かかるからさ、行こう?」
傘を持ちかえたせいか、先輩との距離が一段と狭まった。
先輩の横顔は、薄暗くて。
どんな顔をしてるのか、さっぱりわからい。
一人私は舞い上がった。
先輩が迷惑を感じているもしれないなんて、二の次にして。
それに気付いてからは、ただ早く、早く改札口まで行きたいという思いが強くなった。
雨は、まだ止まない。