おちます、あなたに


 ドアから顔を覗かせた先輩は、手を振ってドアを閉めた。

 再び訪れる静寂に、ようやくさっきの事態を実感する。
どうして私は平穏を保って居られたのか、不思議で仕方ない。

「……わー」

「入るぞ」

 お兄ちゃんが部屋に入ってきた。

「先輩帰ったよ」

「玄関まで送った……あいつ、明日覚えとけ」

 ぼそぼそ言うお兄ちゃんと、私でゼリーを食べる。
みかんの果肉入りで、ほどよい酸味が広がる。

 飲み物は……。

「はちみつれもん?」

「将樹が、喉を痛めてるならこれだ! ってうるさくてな。飲めないなら母さんにでも」

「ううん、飲む」

 初めて飲むはちみつれもんは、先輩と会うたびに感じる切なさを味にしたようだった。
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