鏡の彼
第一話 鏡の彼
 私の彼はちょっと、いやかなり変わっている。

 いつも通り私は学校から帰り、自分の部屋の中へと入った。部屋には、机とベットとクローゼット。それから大きな姿見がある。年頃の女の子にしてはシンプルな部屋。

 だけど、私は気に入っている。ここが唯一自分の居場所のような気がするから――

 早速、私は姿見の前に座って今日の報告をする。

「よう」

 と、くだけた返事で『彼』が鏡越しに姿を現す。

「学校どうだったか?」

 これに私は短く答えた。

「……サイアク」

 変わらず彼が私に話しかける。

 彼は鏡の中の住人。そう、これが私の彼。と、言っても片思いのままだけれど。

 彼が現れたのはちょうど一カ月前。私が高校に入学したての頃だった。最初はびっくりして慌てて母を呼ぼうとした。

 だけれど、彼に強く退きとめられて私は戸惑いながらも話を始めた。案外彼は気さくで、初対面であるはずの私とも気軽に話してくれる。

 未だに、クラスに馴染めない私にとっては彼は数少ない友人であった。

 そんな彼に想いを抱き始めたのはつい最近。自分でも気がつかなかったけれど、今は明確に『好きだ』と言える。心の中だけでは。
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