鏡の彼
 ピアノを弾き終え、私の目には涙が浮かんでいた。本当にいい曲だと思う。そこには秋本くんの姿があったのかもしれない。

 当の、秋本くんも涙を見せないと目を逸らしていた。

「あの……秋本くん?」

「わりい、なんか思い出しちまって……」

「ご、ごめん……」

 私は謝るが、秋本くんはまたいつものひょうきんな顔に戻っていた。

「渡辺のピアノ最高だったぜ! 心を掴む音色が弾ける奴なんてあんまいねえよ!!」

「そ、そうかな」

 初めてだよ、そんなに褒められんの。

「だから、もっと自信持てって! 俺も振り付け考えとくからさ!」

「う、うん!!」

 思わず、私は笑顔を満開にさせた。

 彼には、初めて良い報告を持って行けそうだった。
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