鏡の彼
第五話 報告
時間はすでに午後六時半過ぎ。いつもなら五時半頃には家に帰っている。
「……ただいま」
私が扉を開けると、母が「遅かったじゃない」と私を心配してくれた。
「うん。ちょっと合唱コンクールでピアノ頼まれちゃってさ……」
「あら、本当!? あなたピアノなんて何年も弾いてないのに大丈夫なの?」
「……正直、ちょっと不安」
家にもピアノがあれば練習できるんだけど、って言うのは贅沢。母と子の二人暮らしでは今の生活がやっとな状態なのだから。私が無事に高校を卒業して就職をして、余裕ができたら考えればいい。
テーブルに出された夕食をつまんでいると、母がおもむろに私に話しかけてきた。
「そういえば、あなたの部屋でさっき物音がしたんだけど?」
……まさか。嫌な予感がする。自分の部屋には奇妙な同居人がいます、なんて告白できるわけがない。
「た、たぶん物が落ちたんだよ。今日慌てて出て行ったから、教科書とか積みっぱなしにしちゃってたんだよね……」
「そう? ところで、忘れ物はなかったんでしょうね?」
教科書の語句に反応したのか母は鋭い目線を私に刺してきた。
よりによって、そこを聞きますか……。
「だ、大丈夫だよ!」
「ならいいわ。あ、もうすぐ合唱コンクールがあるって近所の子から聞いたのだけど、親御さんも招待できるのよね?」
そうだった……。その為に合唱コンクールを観覧する親はプリントに名前を記入して先生に提出するように、と言われてたような気がする。
――しまった。
プリントは鞄に入れたはずだと思っていたのに。提出期限は明日だけど、もし学校にあったとすればアウトだ。
途中でどっかに落とした……?
「どうしたの?」
不思議に思う母に私は、とっさの嘘を思いつく。
「ご、ごめん。ちょっと食欲ないんだ……。部屋で寝てるね」
明らかに嘘だと見破っている母をしり目に私はそそくさとダイニングから退散し、自分の部屋に入った。
「……ただいま」
私が扉を開けると、母が「遅かったじゃない」と私を心配してくれた。
「うん。ちょっと合唱コンクールでピアノ頼まれちゃってさ……」
「あら、本当!? あなたピアノなんて何年も弾いてないのに大丈夫なの?」
「……正直、ちょっと不安」
家にもピアノがあれば練習できるんだけど、って言うのは贅沢。母と子の二人暮らしでは今の生活がやっとな状態なのだから。私が無事に高校を卒業して就職をして、余裕ができたら考えればいい。
テーブルに出された夕食をつまんでいると、母がおもむろに私に話しかけてきた。
「そういえば、あなたの部屋でさっき物音がしたんだけど?」
……まさか。嫌な予感がする。自分の部屋には奇妙な同居人がいます、なんて告白できるわけがない。
「た、たぶん物が落ちたんだよ。今日慌てて出て行ったから、教科書とか積みっぱなしにしちゃってたんだよね……」
「そう? ところで、忘れ物はなかったんでしょうね?」
教科書の語句に反応したのか母は鋭い目線を私に刺してきた。
よりによって、そこを聞きますか……。
「だ、大丈夫だよ!」
「ならいいわ。あ、もうすぐ合唱コンクールがあるって近所の子から聞いたのだけど、親御さんも招待できるのよね?」
そうだった……。その為に合唱コンクールを観覧する親はプリントに名前を記入して先生に提出するように、と言われてたような気がする。
――しまった。
プリントは鞄に入れたはずだと思っていたのに。提出期限は明日だけど、もし学校にあったとすればアウトだ。
途中でどっかに落とした……?
「どうしたの?」
不思議に思う母に私は、とっさの嘘を思いつく。
「ご、ごめん。ちょっと食欲ないんだ……。部屋で寝てるね」
明らかに嘘だと見破っている母をしり目に私はそそくさとダイニングから退散し、自分の部屋に入った。