鏡の彼
「ふう……」

 相変わらず、母の目線は鋭い。というか侮れない。

 学校にいる間に二回もひやひやさせられた。そして、この状態。三度目の災難が私には振りかかっている。

(今日は絶対、ビンボークジを引かされた気がする)

 案の定、私の部屋では本が散らばり、ひどい有様になっていた。そして、地に伏せる姿見。

「あのさあ……」

 私は眉間に深くしわを刻ませて、姿見を起した。

「……ってえ。なんだよ?」

 鏡の中から彼の声が聞こえる。額には大きな痕。

「大人しくしててって何度言ったらわかるのよ!」

「し、仕方ねーだろ。お前が忘れもんして机にあげたらこのザマだったんだよ」

 机……?

「あっ……」

 そこには、母に渡さなければいけないと思っていたプリント。数日前に配られてはいたものの、私はすっかりその存在を忘れかけていた。

 でも、どうして彼が? そもそも、机にあげるなんてできるの? できるとしたら抜け出すしか――

「で、いいのかよ? 渡さなくて?」

「わ、わかってるてっば! ありがと……」

 ちょっと照れながらも私は彼に感謝した。彼がいなければプリントも見つからなかったかもしれない。
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