鏡の彼
「みんな! ここはもっと大きくー!!」

 秋本くんの声があがる。

 放課後、私達はクラスメイト達と練習に励んでいた。秋本くんと純子の計らいで私のクラスにサボる人はいない。と言うものの、当初はやる気の無かった人達を立ち上がらせたのが二人だった。

 秋本くんは女子に人気があるし、純子も何故か男子の受けがよく、二人がいれば教室の雰囲気ががらりと変わった。


「ねえ、渡辺さん。ここは、どんな感じがいい?」


 クラスの女子が聞いてくる。

 秋本くん率いる振り付け組は、バンドをしている子、ダンスクラブに通っている子のアドバイスを聞いたりしていた。手をあげたり、激しくはないものの胸に手を当て、見上げるように歌ったり。曲に合わせた振り付けは見事にマッチしている。

 Aメロは男子が歌い、Bメロは女子の担当。そして、サビはパートによる合唱。そこは私のアレンジでもある。

 本来のメロディーに低音を持たせれば、メロディーにはより深みが増してくる。


「うーん……。このメロディーだと穏やかな感じがするから、少し波を持たせたらどうかな? あとさっきの見てたんだけど、ちょっとまだ体が固いかも」
「あーそれあるかも……。棒立ちしててもつまんないもんねー」


 曲が曲なだけに派手なダンスはできないが、直立で歌うのではない。

 私は、パートごとに楽譜を作って配布していた。意見を聞いた子はすぐさま、赤ペンを持って自分に注意書きを入れていた。


「じゃ、もう一回みんなで合わせようか?」
「さんせーいっ!!」


 教室にピアノは持ち込めない。みんなのアドバイスを聞き、それからとなると練習時間は本当に少ないものとなってしまった。
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