鏡の彼
「今回は、大変素晴らしいクラスがございました……。えー……」
台詞が滑らかに出ない校長の癖。もったいぶっている感じにも、時間稼ぎをしているみたいにも思える。
(相変わらず、じれったいなあ……)
私は心の中で、校長へ文句をぶつけた。
「えー……。一位は、三年二組! おめでとう!!」
どうやら、私達のクラスを始め、一年のクラスは全滅であった。大概、賞を勝ち取るのは上学年であろうとの予測はしていた。けれど、虚しい気分にはなってしまう。
私の演奏がいけなかったのかな……。
と、自らを責める私の頭に、先生と同じ温もりがあった。
「渡辺が落ち込む事ねえよ」
秋本くんであった。何度か頭を優しく叩いて、秋本くんは自分の席へと戻る。
「彼、慰めに来たのねー……」
隣の純子が何やらにやついた笑みを浮かべてはいたが、私は気がつかなかった。
三年二組の代表がトロフィーと賞状を受け取り、コンクールもいよいよ閉会へと向かう、と思ったその時であった。
「実は、えー……。今回は一位を上回る大変素晴らしいクラスがございます! そこで勝手ながらも、特別に最優秀賞を設けさせてもらいました。一年三組! 前へ!!」
突然の校長の一言に会場はざわついていた。当の私達のクラスも戸惑いながら、次の動作が繋げずに、先生へと視線で助けを求めた。が、肝心な先生すらまともに指示を出せずにいた。
「ま、まずみんな!! も、もう、みんなまとめてステージへ行け!! ほら速く!!」
身振り手振りでみんなを促す先生であったが、私もみんなの流れに沿うしかなかった。先生はというと最後尾で生徒の一員のようにしてはいたが、少し、いやかなり無理があった。
先生。いちいち親御さんに会釈する生徒はいないと思います……。
ちょっとばかり先生の姿を目撃して、私の緊張はほぐれた。仕舞いには忍び笑いを零してきたほどに。