鏡の彼
――朝だ。

 七時にセットしていた携帯のアラームが鳴り響いている。眠い目をこすり、私は起き上がる。

「……よう。おはよう」

 彼が、変わらない姿で私を見つめていた。そのじっとした姿に私はおもわず聞いてみる。

「昨日、なんか言ってた?」

「いや、覚えてねえ」

「……あっそ」

 寝言とか、そんなものを聞かれたら恥ずかしい限りだ。もしかしたら、彼はこっそりと私の寝顔を見ているのではないかとも思う。

 私はひとまず、制服のブラウスを手に取る。早くしないと遅刻してしまう。

 学校はつまらないけど、勉強はおろそかにできなかった。

「あのさ、これから着替えるから見ないでくれる?」

 姿見にいる彼は大して興味もないらしいが、一応後ろを向く。だけど、見た目は私と同じくらいの男の子。性欲もあるはず。

 とっさに私は姿見を持ち上げた。

「うぎゃっ! ちょ、ちょっと何すんだよ!!」

 反論する彼に私は強く抗議した。

「うるさい!! あんただって男でしょ!」

「知るかよー!!」

 そもそも、女の部屋に男がいる時点で恥ずべきなのでは、とも思う。

 私は姿見を裏返しにして壁に向けた。彼は必死に「戻せー!」と言っているが無視した。

 着替えが終わればどうせ元に戻すつもりだったし、これはちょっとした仕返しでもあった。
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