鏡の彼
 渡された手紙を読み終えた時、そこには笑いが零れていた。私はあちらの世界でもよい子の類ではなかったみたいだ。しかも、私達のイメージする神様とは随分とかけ離れている点。神様が我がままなのが想像できる。


「で、私がこっちに戻ってあんたが帰れば元通りなのね」
「まあな、てお前そんなに簡単に解釈していいのかよ!?」
 肝が据据わっているのか、気が強いのか、彼はやれやれとした表情をしていた。
「まあね!」


 当初、鏡にいた彼に対しても臆せずに接した私だ。図太い神経だけは誰にも負けない。
 それに、私は十分に母と生きる事ができた。だから今度は彼の番。いままでの分を取り戻してほしかった。母は今でも寂しげな顔をするが、当時よりは涙も減っている。私の任務は一応達成できたのかもしれない。


(でも、一番は彼女自身が成長したからかな。図太い神経は親譲り、なんて……)
 いろいろと手を煩わせた想い出を振り返りながら、私は彼を急かした。


「さあ、生きなよ!」
 行け、ではなく生きろ、と私は言った。今度こそしっかり生きて孝行しなよ……。
 だが、彼は首を縦に振ろうとはしなかった。
「悪いが、いけねえんだ……」
「……え?」
 彼の手元には一枚の紙がある。

「神界 輪廻検定試験 (しんかい りんねけんていしけん) 一級、合格……!?」
「――ていう訳さ」


 意味がわからない、と出かけた私を彼が止めた。


「ま、簡単に言えば転生先を決める試験なんだよ。頑張ったんだぜ俺……。一級なんてそうそう取れるもんじゃねえし、だいたい俺なんて特別だから、試験受けるのにも、手続きやら何やら……」
「ちょ、ちょっと待ってよ。じゃあ……!」
 彼は、誇らしげに笑みを浮かべている。


「戻れよ、お前が」
「ばか……!!」


 私は彼の頬を思い切り殴ってやった。涙で濡れた視線が彼を歪ませている。


「いてえ……。何すん……!?」


 彼ははっとしていた。私がこんなにも顔をぐしゃぐしゃにした姿を彼は知らなかった。そっと頭を撫で、傍に寄せる。ほろ苦い彼の唇が重なって私を奮い立たせていた。その瞬間、私の口から想いが零れる。
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