オトナ彼氏∞
「兄貴はもう走れないよ」
突然、背後から声がした
「…え?」
私とりっちゃんが振り返ると、そこには悲しげな表情をした信が立っていた
「…ちょっと信、蓮さんが走れないってどういうことよ」
りっちゃんはわけがわからないといった表情で信を見つめた
信は黙ったまま空いている椅子に腰を下ろす
信にくっついていた雄大も状況を判断したのか、おとなしく信の隣に座った
「兄貴は高校生の時、同じチームのやつのせいでケガしたんだ。治療は終わってるし、何も異常はないらしいけど、それ以来兄貴が走ってる姿は見たことない」
信はゆっくりと説明してくれた
まさか蓮さんにそんな過去があったなんて…
「じゃ蓮さんはそのケガがトラウマで走れなくなっちゃったの?」
りっちゃんはまだ混乱しているようで信に問いただした
「…俺もよくわかんなねえよ。ただ兄貴は俺はもう陸上はやんねーって言うだくで」
「もったいねーよな?関東でもいつも賞もらってたしな」
雄大は蓮さんが現役のころのことを知っているらしく、懐かしそうに言った
「だからってわけじゃねぇけど、俺も陸上やってんだよ。兄貴が行けなかった全日本に行きたいから」
信はまるで自分に言い聞かせるように、ゆっくりとつぶやいた