ティー・カップ
〈あなたにももっと相応しい人がきっといると思う。さようなら〉
 
僕が仕事を終え部屋に戻ったとき、もうエマの姿はなくこのメモがリビングのテーブルの上に置いてあるだけだった。


「あなたにも・・・か」
 

僕はメモを手に取りそう呟くと、片手でくしゃくしゃと丸めゴミ箱へ投げ捨てた。

そして寝室のワードローブの前に行き、左腕に着けている腕時計を外し引き出しの中にしまった。

その中には5本の腕時計がしまわれてあった。

それからキッチンに行き冷蔵庫から缶ビールを数本取り出すと、再びリビングに戻りソファーに腰を下ろした。
 
ひょっとしたらエマが考え直してまだ部屋にいて僕を笑顔で迎えてくれるのではないかと淡い期待を抱いていたが、その思いが叶えられることはなかった。

今日中に出て行くと今朝彼女が言った通り、確かに彼女は出て行った。

僕の知らない誰かほかの男のもとへ。

これで完全に僕とエマのおよそ1年の交際にピリオドが打たれた。

実感はまだあまり湧かなかった。


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