ティー・カップ
一体、彼女はどんな顔をしていたんだっけ?
 

僕は必死にエマの顔を思い出そうとした。

しかし思い出そうとすればするほど僕の心は記憶の渦に巻き込まれ、もがき苦しむことになった。

胸は締め付けられ鼓動が早まり、うまく呼吸することすらできなくなっていった。

僕はしばらく両手で頭を抱え落ち着くのを待った。

ようやく落ち着くと、僕はアルバムの存在を思い出した。

そうだ、この1年エマと様々な場所で写真を撮ったんだ。

それを見れば彼女の顔なんてすぐに分かる。

僕は本棚からアルバムを取り出し開いた。

しかしそこにはエマの姿が写っている写真は1枚も残っていなかった。

どうやら彼女自身が抜き取ったようだった。

最初のページから最後まで繰っていったが、写っていたのは僕や仲間、あるいは旅先などでの風景だけだった。

僕は空白だらけになったアルバムを閉じ元の場所にしまった。

エマはどんな思いで自分の写真を抜き取ったのだろう。

いや、写真だけではない。

部屋をあらためて見渡せば、そこにあったはずの数々の物がなくなっていることに気付いた。

本やCDはおろか、ぬいぐるみや旅先で買った小物類など、彼女の持物はすべて持ち去られてあった。

ひょっとしたらエマの顔の記憶も彼女に持ち去られたのだろうか。



胸の鼓動がまた早まりつつあった。



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