ティー・カップ
買い物を終え部屋に戻る途中、僕の心の中は何かすっきりとしていなかった。

それはエマの顔のことだった。

彼女の顔が僕が紅茶を飲みながら思い出した顔、つまり僕と付き合っていた頃の顔と少し違って見えたのだ。

さっき会ったエマも確かに綺麗だったのだが、僕と付き合っていた頃のエマの方が明らかに綺麗だったように思う。

ひょっとしたら新しい男とあまりうまくいかずに幸せな生活を送れていないのかもしれない。

それとも僕の彼女に対する未練から過去を美化しすぎているだけなのだろうか。
 

その答えが分かったのはその日の夜のことだった。


僕は夕食をとりに近所の行きつけのパブに足を運んだ。

狭すぎることも広すぎることもない程よい広さの店で、コの字型のカウンター席が普通の店よりも多いのが特徴だった。

そこで僕はフィッシュ&チップスをビターのパイントで流し込みながら店主のポールと会話した。

親元を離れこの街に越してきて以来、僕は頻繁にこのパブに通いポールとは様々な話をしてきた。

ときには僕の相談に親身になって乗ってくれ、まさに親代わりといったところだった。

訊ねたことはないが、きっと年齢も僕の父と同じくらいだろう。

エマと別れたことも当然話していた。

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